第9回 学会の礼儀 07年7・8月

先日、日本消費者行動研究学会のコンファレンスで、自分の研究を発表してきた。2004年に修士論文の内容を発表したのに続いて2回目だったのだが、やはり、あの独特の雰囲気にはなかなか馴染めない。
この学会は設立が92年と比較的若い。消費者行動やマーケティングを研究する大学関係者だけでなく、広告業界や企業のマーケティング担当者など実務からも多く集まっているのが特徴だ。だから、私のようなテレビ出身という門外漢も快く迎えてくださった。つまり、かなりオープンな学会なのだが、そうはいっても、テレビのように初めて会ったその日から親しげに話すという感じではない。
発表の仕方、質問への答え方にもお作法がある。パワーポイントを指し示しながら、息つく暇なく早口で説明する。発表で笑いをとるのは、どうやら重鎮だけに許されているようだ。限られた30分の発表時間に、先行研究レビューや調査データを詰め込めるだけ詰め込む。
最後に10分程度質疑応答の時間を残して発表を終えるのが望ましい。寄せられた質問には、必ず「ありがとうございます」と一言言ってから答え、どんな意見にも真っ向から対立する反論はせず、「ご指摘ありがとうございます」とお礼を述べる。と、こんな感じだ。
このように並べ立てると何だか敷居が高いような印象だが、それは私が粗相のないようにとりあえず形から入ろうなどと、不届きな目で見るからそのように映るだけだ。本来は、自分の研究を皆様に聞いていただき、貴重な意見や適切な指摘をしていただき、心から感謝いたしますという気持ちの表れなのだ。
事実、今回私は「多メディア化時代のテレビ視聴行動」というテーマで発表させていただいたのだが、自分でも自信がなかった分析手法について、ズバリ指摘された。かなり痛かったのは事実だが、「分析の信頼なくして、仮説の検証なし」という不文律を改めて自覚させられて、たいへんあり難く、自然と「ご指摘ありがとうございます」という言葉が口から出ていた。もしかして、多少なりとも学会に馴染んできたということか。
一方で、学会の中でも、ちょっと首をかしげる面も無きにしもあらずだ。プログラムにパネルディスカッションが設けられていることが多いのだが、その進行の仕方がもったいないのだ。大体、学会におけるパネルディスカッションは、4~5人の研究者や実務家が参加し、最初に個人の立場を10分ずつ話す。その後、司会者が質問してまた一人ずつ答え、次の質問に移り、また一人ずつ答え、最後までディスカッションしないで終わる。
私はアナウンサーの仕事で度々パネルディスカッションの司会をさせていただくが、盛り上がるのは、節目節目で司会からテーマを投げかける程度で、あとは誰彼かまわず意見を戦わせるというスタイルだ。意見と意見のぶつかり合いがあって、そこで何らかの化学変化が起こり、予想もつかなかった発見や結論に達することこそ、生でディスカッションを行い、それを見る楽しみであると思うのだが...。
先の学会でパネリストの末席に座らせていただいたので、私が思う理想のスタイルを提案させていただいたのだが軽く流され、ディスカッション中に力ワザでパネリスト間の議論を沸き起こそうと思ったが芳しい結果にならなかった。やはり、内容が浅いと議論も起こせないのだった。
恐るべし、学会。

「コミュニケーションのお作法」毎日新聞 SPACE 06~07年

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