第4回 マスコミギョーカイのあいさつ 07年1・2月

「おはようございます!」と言って午後1時くらいに大学の事務室に入っていったら、事務スタッフに笑われた。「テレビ業界の人はいつでもおはようございますと挨拶するというのは本当だったんですね」と指摘され、改めて自分の非常識さに気付かされた。
本来私はそうしたギョーカイ言葉があまり好きではないため、なるべく外部では使わないよう心がけてはいたのだが、クセとは恐ろしいもので、ついつい出てしまうのである。確かにテレビの人間は昼に会っても夜に会っても「おはようございます」と挨拶する。これから一緒に行う仕事を前に、「気分新たによろしくお願いします」ということなのか、他に何か意味があるのかわからないが、なぜかそれが通例なのだ。
普通に考えれば随分と非常識であり、なんだか品がない。大体テレビ業界のコミュニケーションというのは総じて品格に欠ける。いつでもどこでも「おはようございます」の挨拶を、誰にでも初めて会った人にでも目上目下関係なく発する。一度会っただけで次からは「~ちゃん」と馴れ馴れしく呼ぶ人も、減ってはいるがまだかなりいらっしゃる。
新人の頃は「ずうずうしい」に近いこうしたジュアルさに着いていけなかったものだが、先輩から「それで愛想の悪い人と思われたら損」とアドバイスされ、努力して徐々に慣れていった。今では、テレビ局内で会う人には、知らない人でもニッコリ笑って「おはようございます」という心のこもった風を装った挨拶ができるようになるまで、擦れてしまった。
さらに、アナウンサーという仕事上、最も特殊だなぁと思うコミュニケーションは、インタビューである。初めて会った人なのに、和気あいあいと心を割って話すなどということは普通できるはずもないのだが、それをどんな相手にもやってのけることが要求される。
2006年も、サントリーの佐治信忠社長や韓流スターのクォン・サンウさん、安倍晋三総理大臣まで、政財界、芸能界と、幅広い分野の方々をインタビューさせていただいた。まるで100年前から知っていたかのような親密さで。
社会部の記者さんなどと違い、私が行うインタビューは基本的には与えられたテーマに沿って相手の考えや良さを引き出すことが求められるため、和やかな話しやすいムードを作ることが重要となる。
挨拶で、お会いした印象や会えたうれしさを強調し、相手の表情を慎重に見極めながら、会話を展開する。相手のふところに飛び込み、心の中にぐりぐりと入り込まないといい話は聞けない。インタビュアーの性として、他には出ていない話、つまりニュースを引き出すことができない限り満足はできない。ただきれいに品のよいだけの会話は表面をなでているだけだ。でこぼこした感情の起伏やストーリーがあってこそ、記憶に残るインタビューとなる。
そうしたインタビューがアナウンサーに必要な能力だとすれば、ずうずうしさは必要不可欠な資質なのかもしれない。
相手の心にずけずけと入っていかなければならないインタビューを生業としようとする人間が、誰にでも堂々と挨拶くらいできなくてどうする__。
「おはようございます」の挨拶は、新人をずうずうしくさせるためのギョーカイをあげての教育なのかもしれない。

「コミュニケーションのお作法」毎日新聞 SPACE 06~07年

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