第2回 母親気取り 子知らず

人間界とは違い、犬の世界は「少子化」と無縁らしい。我が家は3匹のワイヤーダックスを飼っているのだが、8歳になる『まくら』は子犬を2匹、7歳になる『むく』は、2回の出産で子犬を12匹も産んでいる。そのうちの1匹が『はる』3歳だ。
全てパートナー選びやペアリングはペットショップの人に任せたのだが、自宅で生ませたので、私も助産師さんばりに、介添えを行った。
犬は安産というが、そんなことはない。『むく』の初産のときなど、最初の4匹までは30分に1匹のペースで順調に生まれたが、だんだん力めなくなって、最後の2匹は人間の手で押し出してやらなければならなかった。
誰に教えられたわけでもないのに、子育てもかいがいしくやる。ほとんど何も食べず、休みもせず、子犬におっぱいをやり、おしりをなめてやる。やがて子犬たちの目が開き、歯が生えてくる頃には、独立を促すように突き放す。
「生命の営みは尊いなぁ。人間もこの感動を分かち合えたら、少子化なんてなくなるかも」
自分のことを棚に上げつつ、しみじみ思う。ただ、犬の子供とはいえ、私が取り上げたのだからと、すっかり母親気取りではある。子犬をあげるときなど、たいへんだ。
「うちの子を大切に育ててくれる人じゃないと、嫁にも婿にも出さん!」
と、「欲しい」と申し出てくれた人も、面接をするほどだった。犬を愛してくれて、なるべく家で一緒にいてくれ、さらに、成長を見せにきてくれる人、という条件で探していくと、必然的に身近な人になる。
結局、夫の実家や、私のマネジメント事務所のスタッフ、番組で一緒に仕事をしているナレーターさんの家などにもらわれていった。
また、家を設計してくれた夫婦や、音響設備をお願いした人など、お世話になった人のところにも、嫁入りした。こちらは、感謝の気持ちとともに、「我が家のメンテナンスをよろしく」というちょっとした政略結婚の役割もあったりして。
方々に散ったファミリーを集めて、バーベキューパーティーを開催したこともある。このときは人間7人、犬7匹、壮観だ。頻繁に会っている子犬は親犬も私のことも覚えているのだが、1年あけるとすっかり忘れている。
「私がアンタを取り上げたのよ~。ママはいつも幸せを願ってるんだから」
と押し付けがましく言ったところで、「フン」と鼻を鳴らされただけだった。犬の世界も、親の心、子知らず。

「交遊録」 読売新聞 2008年2月

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