第10回 双方向の時代 07年9月

世間一般に「コミュニケーション」というと、人対人の関わりというイメージが強い。だから、企業の宣伝部の方が「コミュニケーション戦略」という言葉を使うと、なんとなく違和感を覚える人もいるだろう。マスコミの報道でも、宣伝は宣伝、広報は広報というが、コミュニケーションという表現は使わない。私もマーケティングを学ぶまでは、企業がコミュニケーションって、一体、誰と?と首をかしげていた。
そもそも、従来型の宣伝や広報は一方通行で、消費者との対話を意識したものではなかったのだが、最近は、企業と顧客、消費者、社会との関わり全体をマネジメントしていくという意味で、コミュニケーションという言葉が使われるのが主流である。私が教えている「マーケティング・コミュニケーション」の授業では、企業が行う商品の宣伝やPR活動以外に、社会貢献活動や、投資家向け広報なども含まれる。
人対人と同じように、企業と消費者、企業と社会との対話にも重要なのは、コミュニケーション能力だ。人との関わりで重要なのは、相手を理解する気持ちと自分の思いを伝える言葉だ。企業に置き換えれば、消費者や社会を理解する力と、自らの活動を伝える手段というところか。
残念ながら、最近の企業不祥事を見ていると、コミュニケーション能力が不足しているとしか思えない。数々の企業のお詫び会見を見ても、うわべでは謝っても、「知らなかった」、「責任はない」と押し通す様を見ていると、消費者の批判と向き合い、社会の疑問に答えようという姿勢が全く感じられない。
企業だけではなく、政治もまたそうだ。政治こそ、国民とのコミュニケーションそのものだと思うのだが、強行採決の連発を見ていると、どうしても一方的に政策を押し付けられている感じがしてしまう。政治家の皆さんが、「女性は産む機械」「長崎の原爆投下はしょうがなかった」などと迂闊な発言をするのも、この言葉が国民にどう受け止められるかを全く想像していない結果だと思う。
自民党が大敗した先の参議院選挙でも、国民と「コミュニケーション」していた党は一つもなかった。テレビCMばかり、街頭インタビューふうの映像を入れ込んで、今流行りの「消費者目線CM」仕立てに作ってみても、それきりだ。従来型の一方通行の宣伝ではなく、国民との対話の中で理解と信頼を得るマーケティング・コミュニケーションをやっていただきたかった。
国民との接点は本当に街頭演説と握手だけでよいのか。活字離れが進む中、新聞と枚数不足のマニフェストで党の公約が果たして伝わるのか。若者世代が最も親しんでいるメディア、インターネットの双方向性をなぜ活用しないのか。そうしたテーマに沿って、選挙のあり方も変えていかなければならないと思う。
10回にわたるこの連載でコミュニケーションについて考えてきたのだが、総括して思うことは、今、政治にも社会にも人間にもコミュニケーション能力が重視されてきているということだ。学生の就職活動しかり、企業のマーケティング活動しかり、選挙運動しかり。
だから、日本は、モノ作りの時代からソフトの時代になったと言われてきたが、これからはコミュニケーションの時代にしなければならないのではないだろうか。そんな未来を描きつつ、この連載を締めくくりたいと思う。1年間おつきあいいただき、ありがとうございました。

「コミュニケーションのお作法」毎日新聞 SPACE 06~07年

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