第1回 面倒背負って賑やかに 08年2月7日

20代の頃は面倒を背負い込みたくなかった。当時、テレビ東京のアナウンサーとして仕事中心の生活を送っていたし、他にもやりたいことがたくさんあった。仕事と自分に全時間を注ぎ込むため、常に身軽でいたかった。
逆に30代になると身軽な自分が寂しくなり、タイミングよく知り合った男性とお付き合いを経て結婚することになった。「家庭」という人生で初めての重みを背負った。
新婚生活は、夫だけではなく、二匹のワイヤーヘアードミニチュアダックスフントも一緒だった。
「まくら」と「むく」は、つきあい始めてから二人で買った犬たちとはいえ、四六時中一緒に生活するのは初めてである。私は子供のときから「猫派」で、犬とは縁遠かったため、どんな風に接すればいいのかわからない。
ペットショップの人に言われたとおり、トイレのしつけをするのだが、なかなか覚えてもらえない。食べたものを吐いたりしたら、大騒ぎで動物病院に電話した。「キューン、キューン」とあまりにも切ない泣き声に負けて、サークルから出してしまったことも度々だった。
そうこうしながらもなんとか犬との生活に慣れてきた矢先、事件が起こった。
「ギャー!なにこれ?」
新婚生活のために購入した新築マンションに新妻の悲鳴がこだました。モスグリーンのふっかふかのじゅうたんが敷き詰められているお気に入りの寝室に、惑うことなき犬の粗相の跡が・・・。他の部屋は荒らされても、この部屋だけは美しさを死守しようと思っていたのに。
必死の形相でふき取っても、もとの質感には戻らない。ニオイもとれない。自然と涙がこみあげてきた。ただならぬ雰囲気に駆け寄ってきた夫に、私は訴えた。
「無理。私には犬との生活は無理」
新婚生活を始めて数ヶ月、初めての夫婦喧嘩だった。犬との生活を言ってはいたが、恐らく私は、慣れない「家庭の主婦」としての生活はたいへんなのだということを夫に訴えたかったのだろう。張り詰めていたものが緩み、ぼろぼろ泣いたら、なんだかすっきりしたのを覚えている。
あれから5年経ち、今ではもう一匹「はる」も増えた。犬3匹と夫と私、やはり面倒なことはたくさんあるけれど、賑やかな生活を楽しんでいる。

「交遊録」 読売新聞 2008年2月

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